回胴人間模様ベストセレクション
回胴人間模様ベストセレクション (JUGEMレビュー »)
アニマルかつみ, パチスロ必勝ガイド編集部
           
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| 2012.02.15 Wednesday | - | - | - |
 銃声

カエルの子はカエルとは良く言ったものである。

私の父は各種ギャンブルが大好きで、そんな父に育てられたせいもあって、私もギャンブルには目が無いタイプの人間だ。

それだけギャンブルが好きなこともあってたくさんのギャンブルをしてきたが、人生を狂わすほどにのめり込んだり、お金が乱舞するような大博打を打ってきたというわけではない。
お小遣いの範囲で普通にパチンコをしたり、友達と麻雀をしたりくらいのかわいいレベルの話である。

その中でも、私が特に好きなギャンブルの一つにパチスロがある。

のめり込んだきっかけも平凡なもので、私がまだ高校生だった頃にバイト先の先輩に連れられ沸けも解らないままお金が増えたのが、最初のパチスロの思い出だ。

それからというものパチスロの魅力にとりつかれた私は、29才になる今日まで暇があったらパチスロをする生活を続けている。
そして、これだけ続けていると酷いエピソードもたくさんあった。

例えば、良く出る店と聞きつけ遠くまで電車で行ったものの電車賃が無くなる程に負け、泣きながら歩いて帰った話や、卒業出来るか出来ないかがかかった大事な授業にでなきゃいけないのに、フラフラとパチスロ屋に行ってしまったために、単位もお金も投げ捨ててしまった話なんてものは、多かれ少なかれ皆さんにもあると思う。
今日はその中でも特に希少な体験の一つを紹介したいと思う。


ある日の事。

携帯電話の着信音に揺り起こされた私は、布団に顔をうずめたまま、着信音を頼りに電話を取った。

「すげえ出る店があって、明日の終電くらいから店に並ぼうと思ってるんだけど、お前も行く?」

やはりというかなんというか、いつも通りパチスロのお誘いである。

パチスロ屋というのはおいしいパン屋さんと同じで、開店待ちというものがある。
東京のお店は朝10時に開店することが多く、良い台に座りたいと考える人は一般的に8時とか9時くらいからお店の前に並んで開店を待つ。


そして良い店になるとそれ相応の人だかりができ、先頭集団に関してはドラゴンクエストの発売日よろしく前日組が出る事も少なくない。
彼もそんな一人で、前日から並ぼうというお誘いの電話だったのだ。


彼は「ぼくじょう」という名で皆に親しまれ、日本でも有数の大学に入学しながらも、パチスロに魅せられ除籍となった愛すべき男である。


特に用事が無かった私は二つ返事でOKをして、彼と一緒に終電からパチスロ屋に並ぶ事にした。


そして当日。
場所を聞いてなかった私は、彼に連れられ愕然とする。
そのパチスロ屋は眠らない街歌舞伎町の中心にあるお店だったのだ。
終電を過ぎても街は賑やかで、まだ若かった私はこれからの一晩の事を考え、緊張感を漂わせていた事を覚えている。


日本にある街の一つと言ってしまえばそれまでだが、煌びやかな女性、華やかなネオンに飾られ、そして銃声の鳴らない日が無いと言われる街である。


慣れない街並みに震えながら、もし銃で撃たれたらどうしようと、現実味が有るのか無いのか解らない妄想に身体を震わせていた。
しかしながら人間とは不思議なもので、時間が立つにつれ段々と周りが気にならなくなるのだから、やはり慣れとは怖いものである。


だが、恐怖が取り除かれても問題はまだある。
終電から翌朝の開店時間まではおよそ10時間程度あり、圧倒的に退屈なのだ。
ぼくじょうとの会話も最初のうちははずんでいたが、話すネタも無くなり、お互い疲れてきたのか、ただただ無言の時間を過ごすようになっていった。


そして道路のアスファルトのでこぼこを数え始めてから一時間程度たった頃だろうか。
空が明るみ始め、スズメの鳴き声や電車の走る音が聞こえ始めた。


そうはいっても、まだ諸手をあげては喜べない。
ようやく夜が明けてきたとはいえ、開店までの時間を考えればまだまだ折り返し地点なのだから。


そして電車の音に反応したのか、大仏みたいな格好(タイの寝っ転がってる奴ではない。)で寝ていたぼくじょうが急に目を覚まして、空をみながらこうつぶやいた。


「オレ イク トイレ。」


こいつはやっと顔を出してくれたお天道様に何を伝えてるんだと思いながらも、突っ込む程の気力も無い私は静かにうなずいた。


引き続きアスファルトのでこぼこを数える事、10分。
どうしたものだろうか。
彼が帰ってくる気配が無い。


人それぞれとは思うが、通常トイレというのは数分もあれば戻ってくるだろう。
男性であれば尚更だ。


そうはいっても、我々がいるのはただの路上。
トイレを探す時間も考慮する必要があるので、まだ遅いという程の時間では無い。


しかしそんな考えをあざ笑うかのごとく、20分経っても、30分経っても、彼は帰ってこなかった。


心配になり何度も電話をかけるが、無機質なコール音が鳴り響くばかりである。


私の頭の中に嫌なイメージばかりが浮かんでくる。
なぜなら、ここは銃声の鳴らない日の無い街だからだ。


誰かに絡まれたり、謂れのない因縁をつけられた可能性だって考える。
悲しいかなこの街は治安が良いとはお世辞にも言えない。


あるはずがない。
そんなことあるはずがない。


そう自分に言い聞かせながらも、胸に宿ったざわめきは消せるものではなかった。


確かに大仏のように眠ってる姿に殺意が芽生えたのは隠しようの無い事実だ。
でも本当にいなくなってしまうのはいくらなんでも辛すぎる。
まだまだ教えてもらいたい事だってたくさんあった。


彼の話はパチスロの打ち方や、麻雀のやり方なんていう、どうしようもない事ばかりだったが、当時の私はその話にいつだって目を輝かせていた。
いや、何も当時に限った話ではない。
29歳になって社会に出るようになった今だって、彼が話しをしてくれるのであれば目を輝かせて接することだろう。


確かに傍からみればぼくじょうと過ごす日々は、ただの自堕落でどうしようもない日々かもしれない。
しかし、そのどれもが私にとっては掛け替えのない素晴らしい日々だったのだ。


いつまでも帰ってこない彼の事ばかりが頭を駆け巡る。
トイレに行ったのであれば、そこまで遠くには行っていないだろう。
さすがに「トイレに行く」という言葉だけを残して、電車に揺られて自宅のトイレに行く事は考えづらい。


私は悩んだ。
彼を探しに行くべきか、行かざるべきか。


恐らくだが、早く行けば行くほど彼に出会う確率は高くなる。
時間が経つにつれ足取りを追いづらくなるのは自明の理だろう。
しかし今この場を離れる事は、終電から夜が明けるまで過ごした、この数時間を無駄にすることになる。
私が列から離れた瞬間に、目の前の道の角から、彼がひょっこり現れたとしたら、もう列には戻れない事を、私はどのように謝ればいいか解らない。


どれほど悩んだだろうか。

一通り悩んだ結果、残ったのは自責の念だけだった。
自分が本当に情けない。


なぜなら私が天秤にかけていたものは、彼の安否と己の保身だったのだから。


掛け替えのない友人と、終電から並んでいるというちっぽけな軌跡。
冷静に考えれば、どちらが大事かは言うまでもない。



そして彼がトイレに行くと言ってから一時間後。


「待ってろよ、セリヌンティウス」


そう心の中でつぶやいた私は、列から離れる事を決意した。


不思議なもので、一晩中目の前にあって見飽きたはずのパチスロ屋の看板も、今では少し名残惜しくさえある。


「今まで世話になったな。オレは友人を捜しに行くよ。」


「気にするな。おまえと過ごした時間、なかなか悪くなかったぜ。」


「またどこかで会おうな、看板。」


戦友と熱い語り合いをした私は、最後にパチスロ屋を一瞥し、彼が消えていった方角に身体を向けた。



私は列から踏み出そうと思う。


この一歩は一人の人間にとっては小さな一歩だが、列から離れる者にとっては大きな一歩となるだろう。


                ノービ・アームストロング


そして列から離れようとしたその時である。


なんと視界の片隅、見覚えのある男が入ってきたのだ。


どれだけ遠くても間違えようがない。
一時間前にトイレに行くと言っていた男。
そう、ぼくじょうだ。


ゆっくりと近づいて来た彼は、満面の笑みを浮かべている。
恐らく、彼も安息の地へ戻ってこれた事を喜んでいるのだろう。


「無事で良かったね、セリヌンティウス」

私はくしゃくしゃの笑顔で彼を迎え、当然彼も同じ気持ちだと思った。
そう思っていた。


しかしなぜだろう。
満面の笑みの彼に、何か違和感を感じる。


その違和感は視線をすり抜け、私の鼻孔をくすぐってきた。


そしてぼくじょうが私に近づくにつれ、その違和感は確信へと変わっていく。


 

どう考えても、異常なほどに石鹸臭い。


 

さっきまで路上の大仏になってた奴からこんな匂いがするはずがない。
お住まいが石鹸の国じゃなきゃ、まったくもって説明がつかない。


いったいこいつはどこのトイレに行ってきたんだ。



心配をし続け、ぼくじょうとの日々を思い返して放心状態になっていた私をよそに、あり得ない程の上機嫌であいつがしゃべりだした。



「いやー、オレのピストルが火を噴いちゃったぜ(笑)」



噴いちゃったぜ(笑)じゃねーよ。


こんな低俗な下ネタは久しぶりに聞かされた。
以前の会社の係長並みに切れが無い。
法治国家だっていうのに、こんな低俗な奴を取り締まれないなんて、この国はどうかしてる。


こんなに意味の無い心配をしていたのかと思うと悔しくてしょうがない。
そしてあまりにも自分が無知だった事に気づかされ本当に恥ずかしい。


良く良く考えれば、こんな事は当たり前の事で、簡単に想定できなければいけない事だった。

 



 

だってここは歌舞伎町。


銃声の鳴り止まない街なのだから。


 

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